もくじ
差し乳、溜まり乳という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
差し乳タイプはおっぱいがあまり張る感覚がない、搾乳をしてもあまり量が取れないなどと言われ、反対に溜まり乳はおっぱいが常に張りやすいなどと言われたりします。
実は、差し乳、溜まり乳という言葉は正式な言葉ではなく、母乳の作られ方や乳房の張りやすさのタイプを表す俗語で、産院などで教えてもらうことはありません。
そのため、間違って伝わっていることも多く、自分がどちらのタイプか不安に思うママも多いのではないでしょうか。
母乳育児をスムーズに進めるためにも、言葉の意味をきちんと知って不安を解消させておきましょう!
差し乳とは?意味と特徴

差し乳の読み方と意味
差し乳は、「さしちち」と読み、一般的には赤ちゃんが吸ってくれている間だけ母乳が作られるタイプと言われています。
そのため、赤ちゃんが吸ってくれず、授乳間隔があいてもおっぱいの張りを感じにくいと考えられています。
差し乳タイプの特徴
- 赤ちゃんが吸ってくれると同時に母乳分泌がスタートする。
- 授乳間隔があいてもおっぱいが張ってこない。
- 搾乳をしても赤ちゃんが満足するほど量が取れない、もしくはほとんど取れない。
- 授乳時のみ張りを軽く感じることがある。
- おっぱいが張っている感覚があまりないので、母乳不足感を感じやすい。
溜まり乳とは?言葉と特徴

溜まり乳の読み方と意味
溜まり乳は「たまりちち」と読み、赤ちゃんの吸う刺激がないときも常におっぱいが産生されるタイプで、赤ちゃんが飲んでくれないと乳房の張りを感じやすいとされています。
溜まり乳タイプの特徴
- 赤ちゃんが吸っていないときも常におっぱいが作られている
- 赤ちゃんが飲んでくれず授乳間隔があくと乳房が強く張ってくる。
- 搾乳をするとよく取れる。
- おっぱいの張りを感じやすくトラブルを起こしやすい
差し乳タイプと溜まり乳タイプの見分け方
差し乳と溜まり乳の意味や特徴をお話ししましたが、自分がどちらのタイプかどのように見分けるのでしょうか。
授乳経験のあるママだと、どちらか一方の特徴しかないという方はきっといらっしゃらないと思います。
いつもは張りを感じないけど、日や時間によって張りやすいときがあるという方、右側は張らないけど左側は張りやすいという方など色々いらっしゃると思います。
つまり、いつも一方だけの特徴に当てはまるという方は少ないのです。
それでは、差し乳タイプと溜まり乳タイプはどのように見分けるのでしょうか。

差し乳も溜まり乳も実はおっぱいの作られ方は一緒
先ほど、差し乳と溜まり乳の特徴の一つに、母乳の作られ方に違いがあるとお伝えしましたが、実際は、どちらのタイプも母乳の作られ方は一緒なのです。
母乳は赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激によって作られ始めますが、刺激を受けている間だけ作られているわけではなく、実は、どちらのタイプも常に母乳は作られています。
それでは、何が違うのかというと、赤ちゃんがコンスタントに吸ってくれることで、乳房内におっぱいがあまり残らない方は差し乳タイプ、母乳分泌が多く、赤ちゃんが吸う量以上に分泌される方は、張りを感じやすく溜まり乳タイプと言われるのです。
差し乳と溜まり乳は経過によって変化する
差し乳と溜まり乳は体質によってタイプが分かれると思われがちですが、ママそれぞれのタイプというより、産後、授乳開始の経過とともに変化していくものなのです。
そのため、産後すぐは張りやすくトラブルも多かったですが(溜まり乳タイプ)、その内、落ち着いて張りをあまり感じなくなった(差し乳タイプ)という方も多いです。
右乳と左乳によっても違う
乳房や乳頭にも人それぞれタイプがあり、左右でも違いがあります。
また、初めてのお子さんで授乳経験がないと、どちらかの乳頭が短かったり硬かったりすると、どうしても吸わせやすい方で授乳をしてしまい、左右差が出てしまうことがあります。
つまり、よく吸われている方は刺激が多くなるので、母乳分泌が進み「溜まり乳タイプ」に、吸われる回数が少なく刺激が少ない方は張りにくくなり「差し乳タイプ」に当てはまると言えます。
差し乳と溜まり乳は体調によっても変化する
差し乳と溜まり乳は実は体調によっても大きく変化します。
いつもはあまり張りを感じない差し乳タイプでも、体調が悪いときや、濃い食事の後は母乳が詰りやすくなるので、溜まり乳になりやすくなります。
一方、溜まり乳タイプの方でも、強いストレスや疲れが持続的にかかると母乳分泌が悪くなり、差し乳タイプになることがあります。
本当の母乳の作られ方
差し乳タイプも溜まり乳タイプも、母乳の作られ方は一緒であることはお話ししました。では、具体的にどのように作られるのでしょうか。
母乳は、赤ちゃんが生まれるとすぐにたくさん出るわけではなく、産後、あらゆる変化によって徐々に分泌が増えてきます。
そのため、産後すぐは「初乳をあげたいのにおっぱいが出ない」などと思われた方もいるかも知れませんね。
これは正常な経過なのです。
母乳ができるまで【第Ⅰ期】
母乳は妊娠26週頃から作られ始めますが、産後、妊娠中のホルモンとは大きく変化することで、母乳分泌が加速的に増えていきます。
それでも、産後1日目~2日目までの母乳分泌量は平均1日30ml程度といわれています。
この時期、母乳分泌を増やすために大切なことは、頻回に授乳することで乳頭にたくさん刺激を与えることです。
母乳ができるまで【第Ⅱ期】
産後3日目~8日目頃は第Ⅱ期と言われ、この時期は、乳房内に血液が大量に集まることで母乳の産生が進み、母乳分泌量が一気に増えてくる時期です。
この時期は、血液が一気に乳房内に溜まることや、赤ちゃんもママもまだ授乳に不慣れで母乳を上手く吸えないことで溜まり乳の傾向になりやすいと言えます。
母乳ができるまで【第Ⅲ期】
この時期は産後9日目以降を指し、母乳分泌量が一定に保たれる時期を言います。
この頃の母乳分泌量は、赤ちゃんがおっぱいを吸う刺激に加え、母乳がきちんと授乳のたびに乳房内から吸われることが重要になってきます。
乳房内の母乳は、欲しがる分だけ赤ちゃんが飲みきることで、次の授乳までにまた、同じ量だけ作られます。
そのため、たくさん吸えば吸うほど分泌量は増えていきます。
赤ちゃんが上手く吸えないときは、きちんと搾乳をして刺激を与えることと、乳房内の母乳を取ってあげることが大切になってきます。
おっぱいの張りを感じるのはどんなとき?
差し乳タイプも溜まり乳タイプも母乳の作られ方や分泌量は変わらないのに、どうして人によって張りやすい人、張りにくい人がいるのでしょうか。実際、おっぱいはどんなときに張りを感じるのでしょうか。
乳房うっ積
産後、おっぱいの張りを初めて感じるのはこの乳房うっ積といわれる症状です。
これは、産後、母乳分泌を本格的にスタートさせるために、母乳の原材料となる血液が大量に乳房内に溜まることで感じる張りを言います。
この乳房の張りは、産後、赤ちゃんに乳頭を刺激されることで起こる生理的な張りで、誰しもが経験する経過ですが、母乳分泌が多い溜め乳タイプの方は、より強い張りを感じやすいと言えます。
時間の経過とともに集まった血液から母乳が作られ、赤ちゃんが飲んでくれることで徐々にこの張りは落ちついていくでしょう。
乳汁うっ滞
次に起こりやすい張りは乳汁うっ滞と言われるものです。
この張りは、何らかの理由でうまく乳房内から母乳が排出されないことで起こる張りで、対処が必要な張りです。
乳汁うっ滞は、産後3日目~8日目までの第Ⅱ期に起こりやすく、赤ちゃんの吸う力の不足や乳頭の形などで赤ちゃんが上手く吸えないことで起こることが一番多いです。
また、母乳分泌が多い溜め乳タイプの方は、赤ちゃんが飲む以上に母乳を作ってしまい、乳房内に母乳が残ってしまうため乳汁うっ滞を起こしてしまうこともあります。
対処法として、赤ちゃんが上手く吸えるような介助や搾乳などが必要になります。
うっ滞性乳腺炎
先ほどの乳汁うっ滞の状態をうまく対処できないと、乳房の張りだけでなく、乳房の痛みやしこり、発熱などの炎症反応を引き起こしてしまいます。
この状態をうっ滞性乳腺炎と言います。
うっ滞性乳腺炎は、まだ母乳育児がしっかりと確立していない産後1週間~2週間の間に起こりやすいと言われています。
乳汁うっ滞とは違い、乳房につまりを起こして赤ちゃんが吸いにくい状態となっているため、適切な乳房マッサージや搾乳、冷却などが必要です。
化膿性乳腺炎
うっ滞性乳腺炎と同じく、母乳のつまりによる乳房の張りやしこり、痛みは同じですが、それに加え、乳頭などにできた傷から細菌が入り化膿した状態をいいます。
そのため、うっ滞性乳腺炎より症状が強く、高熱が出るのが特徴です。
産後2~3週間以降に多く、乳腺炎になりやすい方は繰り返してしまうケースも多いです。
細菌感染による高熱を伴うため、抗生剤の内服など病院での処置が必要になってきます。
繰り返さないためには、授乳間隔や授乳方法の見直し、適切な搾乳、清潔などが大切です。
乳腺炎は、体質によってなりやすい方もいらっしゃいますが、疲れやストレス、食事内容などによって発症することもあるので、乳腺炎になりやすい方は特に注意が必要でしょう。
タイプ別、よくある疑問と乳房トラブルの対処法は?
差し乳タイプに多いトラブルと対処法
おっぱいが張らないので出ているか不安
産後3日目頃に起こる生理的な張り(乳房うっ積)が落ち着いて、母乳分泌と赤ちゃんの飲む量のバランスが整ってくると、張りはそんなに感じなくなります。
そのため、授乳間隔があくということが無ければ、通常、乳房は常に柔らかい状態です。
赤ちゃんの体重が順調に増え、排泄回数も安定しているようなら問題はありません。
どうしても母乳不足感がある場合は、授乳1回の母乳量を測ってみるとよいでしょう。
母乳分泌量を増やしていくコツは、1日8回以上の授乳をすることと、特に夜間授乳をすることで母乳分泌に必要なホルモンが活発になり、母乳の分泌量が増加します。
搾乳しても量が取れない
搾乳は、乳房トラブルなど必要なときにだけおこなう手技で、特に必要が無ければする必要はありません。
母乳分泌量が少なく、乳頭刺激を目的におこなう搾乳は、そもそも刺激が目的なので、母乳分泌量を気にする必要はありません。
基本的には、赤ちゃんが欲しがる分だけ母乳をあげることで、必要な量の母乳が出てくるので、人工的な刺激(搾乳)は加えなくてもよいのです。
溜め乳タイプに多いトラブルと対処法
おっぱいが張りやすい
母乳分泌が赤ちゃんが吸う量以上に出やすい方は、まず必要以上に刺激を加えないことが大切です。
赤ちゃんが吸ってくれても乳房に張りを感じたり、常に張りを感じたりするとつい搾乳したくなりますが、搾乳をするとさらに刺激が加わり、母乳分泌が亢進するので不必要な搾乳はしないようにします。
一方、上手く赤ちゃんが吸ってくれず母乳が溜まってしまう場合は搾乳が必要です。
搾乳の方法は、自分の手で行なう手搾乳と搾乳器を使う方法とがありますが、コツはどちらも取り過ぎないことです。
乳房につまりがあり、自分ではうまく搾乳できない場合は、母乳外来など専門家に搾乳やマッサージを依頼するとよいでしょう。
母乳がつまりやすい
おもちやケーキを食べると母乳がつまりやすいなどと言われますが、母乳のつまりやすさも体質が関係するようで、食べても全くつまらない方とすぐにつまってしまう方がいらっしゃいます。
分泌が過多傾向でつまりやすいタイプの方は、食事内容に注意するようにしましょう。母乳は血液からできているので、血液をドロドロにさせるような脂っこいものや甘いものには注意が必要です。
どちらのタイプにも多い疑問とトラブル対処法
片方だけ溜まり乳(差し乳)になる
ママ自身が吸わせやすい側や赤ちゃんの飲み癖などで、どうしても一方だけ授乳回数が多くなると、乳房の張りが一方だけ強くなり(弱くなり)ことがあります。
そうすると、左右差が出てしまいます。
対処法は、右側から飲ませた場合、次は左側から飲ませるなど、できるだけ均等に飲ませるようにします。
溜まり乳は作られてから時間が経っているの?
母乳の作られ方でもお話ししましたが、母乳分泌が確立すると、赤ちゃんが母乳を吸って乳房が空になることで、また新たに母乳分泌が始まり乳房に溜まっていきます。
そのため、張りの感じ方に違いはあって、も差し乳タイプも溜め乳タイプも時間が経って古い母乳ということはありません。
通常、授乳サイクルは2時間~3時間毎なのでその間に必要な母乳が作られていきます。
おっぱいをあげ始めると乳房が張ってくるのは何故?
赤ちゃんにおっぱいを吸われたり、ママが赤ちゃんを抱き上げて胸元に寄せたりすることで母乳に関わるホルモンが活発になるためです。
このホルモンはプロラクチンやオキシトシンと言われるホルモンで、母乳の分泌を促したり、射乳を促したりします。
そのため、おっぱいをあげ始めると乳房が張ってくるような感覚や、母乳をあげていない方の乳頭から母乳が溢れてきたりするのです。
差し乳も溜め乳も母乳育児の方法に変わりはない!
差し乳は母乳分泌が少なく、反対に溜め乳は母乳分泌が多くつまりやすいなどと思われがちですが、差し乳も溜め乳も母乳の作られ方に変わりはありません。
また、どちらのタイプも悩みはママそれぞれです。人によって、母乳分泌が少ない方、多い方、張りを感じやすい方、そうでない方など色々いらっしゃいます。
自分のおっぱいのタイプと起こりやすいトラブルを知って適切に対処することでスムーズに母乳育児を進めることができます。
差し乳だから溜め乳だからと一人で悩まず、トラブルが起こったときは、周囲に相談をしながら赤ちゃんとママが楽に母乳育児ができるといいですね。